
問題
次の文章を最低三回音読してから、後の問いに答えなさい。
青森県でりんごを栽培しているという女性と、ある会合でご一緒した。その日は東京にお泊りになるとのこと。宿がたまたま私の住んでいる町と同じ方向だったので、帰りも一緒に地下鉄に乗った。
自分のことを「りんご園のおかみ」とその人は言う。小柄で、どこか少女を思わせる二重まぶたの目。おっとりとした話し方なので、その「りんご園のおかみ」という言葉も、なにか素敵な絵本の中の言葉のようにロマンチックに響いた。
今年は天候が不順で心配だというような話をしながら、ふとその人は何かを思いついたらしく、いたずらっぽい目で私を見る。
「そうだ、あなたに質問してみよう」
「えっ、何ですか」
「りんごの花で布を染めると、どんな色になると思いますか?」
本物のりんごの花を、私は見たことがない。写真か何かでたしか白っぽい花だったように記憶している。まるで根拠はないが、なんとなく淡いピンクかなという気がして、そう答えた。
「うふふ、正解はこれ」
ハンドバックの中から取り出された一枚の木綿のハンカチーフ。広げると、うすい黄色にうすいきみどり色を混ぜてやわらかくしたような色だった。幼いころ、風邪をひくと必ず母が食べさせてくれた、すりおろしたりんごの色にも似ている。そんな記憶もあいまって、私はしばらくうっとりとそのハンカチに見入ってしまった。りんごの浴びた陽ざしがハンカチにも吸収されて、それが内側からやさしく光っているような感じである。
「きれいですねえ」
やや間のぬけたタイミングで私がそう言うと、その人は嬉しそうにほほえんで、またきちんとたたみなおす。その手つきのやさしさは、りんごへの愛情をごく自然に感じさせた。
「私ね、これ、りんごのなみだ色って呼んでいるの」
「えっ、なみだ色?」
「そう。なみだ色」
その時、はかりしれない苦労がちらりと、「りんご園のおかみ」の顔を横ぎったように思われた。花の咲くよろこび、収穫のよろこび。けれどそこにいたるまでには、数えきれない涙が流されている――そういう意味だろうか、と思った。が、そういう意味ですか、とは聞けなかった。具体的にはどういう意味ですか、とも問えなかった。それを表面に出さないところが、その女性の魅力のように思われたから。そういう涙は木綿にしっかり吸わせて、美しいハンカチにして、ハンドバックしのばせておく。涙の意味は、決して言葉にはならないだろう。
私には、なみだ色のハンカチがあるだろうか、とふと思った。
りんごの花の咲く季節には、まだ遠い。
( 俵万智 『りんごの涙』 より引用しています。)
問題
__________線「私ね、これ〜呼んでるの」とありますが、「りんごのなみだ色」のハンカチには「りんご園のおかみ」のどのような気持ちがこめられていると筆者は考えましたか。最も適切なものを次から選び、記号で答えなさい。
解説
では、早速本文と問題文を読んでみましょう。
ここで、「あれ?選択肢は?」と皆さん思いましたね。これが、
◎ポイント1 「選択肢はすぐに読んではいけない!」です。
選択肢の問題では、問題文を読んですぐに選択肢も読んでしまいたくなりますが、正誤問題や段落分け問題などの特殊なものを除いては、後回しにしなければなりません。ここでいきなり読んで答えるということは、答えの根拠も何もないため、ただの「当て物ゲーム」になってしまうからです。
じゃあ、次はどうするの?と思いますよね。
◎ポイント2 やっぱり、「何が問われているのか」を明らかにしよう!です。
この点がわからなければ、答えとなる内容を正確に選び出すことはできませんね。
それではしっかりと見ていきましょう。すると、
「りんごのなみだ色」のハンカチには、「りんご園のおかみ」のどのような気持ちがこめられていると筆者は考えましたか。
とあります。つまり、筆者は、ハンカチにどのような気持ちがこめられていると考えているのかを聞いているのです。
また、ここでもう一つ確認しておくべきことがあります。
◎ポイント3 「当てはまるのか当てはまらないのかの確認を怠るな!」です。
この確認を怠ると、「この問題難しいなあ」と散々苦労したあげく間違うという、悲しい結果になってしまいます。
今回については、問題文に「最も適切なものを次から選び」とあるので、「当てはまる」ものを考えればいいわけですが、時々思い出したように出てくる「当てはまらないものを選べ」問題に対応するためにも、いつでもチェックするようにしましょうね!
それでは本題に戻りましょう。先程「ハンカチにどのような気持ちがこめられていると考えているのか」について問われていると読み取りましたが、これについてはやはり本文を読めばわかります。
「私ね、これ、りんごのなみだ色って呼んでいるの」
「えっ、なみだ色?」
「そう。なみだ色」
その時、はかりしれない苦労がちらりと、「りんご園のおかみ」の顔を横切ったように思われた。花の咲くよろこび、収穫のよろこび、けれどそこにいたるまでには、数えきれない涙が流されている――そういう意味だろうか、と思った。が、そういう意味ですか、とは聞けなかった。具体的にはどういう意味ですか、とも問えなかった。それを表面に出さないところが、その女性の魅力のように思われたから。そういう涙は木綿にしっかり吸わせて、美しいハンカチにして、ハンドバックにしのばせておく。涙の意味は、決して言葉にはならないだろう。――
つまり、「花の咲くよろこび、収穫のよろこび、けれどそこにいたるまでには、数え切れない涙が流されている─そういう意味だろうか、と思った」、「そういう涙は木綿にしっかり吸わせて、美しいハンカチにして、ハンドバックにしのばせておく」の二ヶ所の内容から、「木綿にはりんご栽培の苦労が染み込んでいて、そしてそれはハンドバックにしのばせて表面には出さないものだと考えている」、とわかります。
後はこのことと同じ内容の選択肢を選べばいいわけです。
それではいよいよ選択肢を選んでいきましょう。
ア りんごを収穫するまでの数々の苦労を、きれいな思い出に変えて心の中にしまっておきたいという気持ち。
イ りんごが泣いているように表現することで、りんご栽培の苦労をそれとなしにわかってもらおうと思う気持ち。
ウ りんごの花で布を染めたハンカチを身につけて、りんごを収穫したよろこびにずっとひたっていたいと思う気持ち。
エ 長い期間をかけてやっと実っても、すぐに収穫されてしまうりんごをかわいそうに思う気持ち。
先程まとめた内容と見比べてみると、エは全く違うことがわかると思います。
では、ここからは選択肢の文章を細かく比較してみましょう。
◎ポイント4 「迷った時は、一つ一つ読み取った内容と見比べる!」です。
早速、アから見ていくと、前半は
「りんごを収穫するまでの数々の苦労を」=「木綿には、りんご栽培の苦労が染み込んでいて」となり、○になります。
後半は「きれいな思い出に変えて心の中にしまっておきたいと思う気持ち」とあり、特に傍線部は「ハンドバックにしのばせて表面には出さないもの」という内容とマッチします。「きれいな思い出に変えて」の部分については、本文に同じ表現はありませんが、「そういう涙は木綿にしっかり吸わせて、美しいハンカチにしてとあることから、涙が何か「美しいもの」に変えられるということがわかり、正解である可能性が大きいと考えられます。
こういう時は、いったん置いておいて、他の選択肢が間違っているかどうかを確かめましょう。
◎ポイント5 「答えの候補が見つかっても、選択肢は最後まで読むこと!」です。
次にイをみると、「りんご栽培の苦労をそれとなしにわかってもらおうと思う気持ち」の部分が、「それを表面に出さないところがその女性の魅力のように思われた」と一致しないことから、間違いとわかります。
最後はウですが、これは、「りんごを収穫したよろこびにずっとひたっていたいと思う気持ち」の部分が「花の咲くよろこび、収穫のよろこび、けれどそこにいたるまでには、数えきれない涙が流されている─そういう意味だろうか、と思った」と合わないので、これもはっきりと間違いであると判断できます。
よって、やはりアしか残らないことが改めてわかり、答えはアとなります。
以上が基本的な「選択肢問題」の解き方ですが、これで選択肢問題のポイントがしっかりと本文の内容と比べるというところにあることがわかったのではないでしょうか。微妙な内容に惑わされないように、皆さんも確実に比較検討していきましょう!案ずるより生むがやすし(できるかなあと心配しているよりも、実際にやってみたほうが案外簡単だったりすることのたとえ)です!!
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